1.はじめに
「第33回技能グランプリ かわらぶき部門」。
技能グランプリは、厚生労働省と中央職業能力開発協会、一般社団法人全国技能士会連合会によって行われ、瓦だけでなくその他の建設業・製造業・繊維業など全30職種の競技があり、例えばかわらぶきの横でガラス施工や石工の大会が行われていたり、隣のフロアでは紳士服や婦人服の製作なども行われていました。私たちが観戦した「かわらぶき部門」は、全国から7名の瓦葺き職人たちが出場しました。各エリアの選ばれし瓦葺き師たちが、同じ課題に挑み、いかに正確に美しく葺けるかを競います!
今大会の概要については、以下のブログ記事にて紹介しております。
□ 匠の技日本一を競う大会 『第33回技能グランプリ かわらぶき部門』に行ってきました!~観戦レポート(前半)~
それでは実際の競技を見ていきましょう!
2.競技開始
張り詰めた空気の中、開始の合図が会場へと鳴り響きます。競技開始の合図で、選手たちは動き始めました。今回の競技時間は2日間合計で11時間。前回の10時間40分よりも20分長く設定されています。最後まで集中して精度を維持するには、技術力以上に強靭な体力と精神力が求められる過酷な設定です。
過去に出場された瓦屋根職人さんは、このように語ります。
今回、課題にて使用される瓦は日本三大瓦の一つ、三州瓦の「いぶし瓦」。銀色に輝く独特の渋みが特徴ですが、わずかな手垢や汚れも目立つため、施工には細心の注意が求められます。
今回は、「一文字軒瓦」と「万十軒瓦」の両方を使用するという構成。直線美が命の一文字と、重厚感のある万十。これらをいかに通りよく納めるかが、最初の見どころです。
3.身近で感じた瓦屋根の強さ
古くより日本家屋の屋根を守ってきた瓦。昔の瓦屋根を知っていると「重い」「地震に弱い」といったイメージがあり、危険なイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら現代の屋根は、その印象を覆します。
かつての瓦葺きと大きく異なるのは、その「堅牢性」です。
「桟瓦は全数ビス留めとする」
仕様書にあるこの一文は、災害に強い屋根を作るための鉄則。現在ではガイドラインにより義務化されているため、非常に耐久性が高く安全な屋根になります。
競技者は、一枚一枚の瓦を確実に下地へ固定していきます。隅の難しい箇所では「トンボ」と呼ばれる固定具を使い、銅線で野地に緊結。「絶対に飛ばない、ズレない」。その安心感を作るための手仕事が続きます。
4.競技終盤、屋根職人たちの、過酷で美しい戦記
最終日でもある2日目には、1日目の疲れを残しつつも細かい調整を重ねている様子が見られました。
競技の終盤、カンカンカンと高い音が会場に鳴り響きます。かなづちで瓦を叩き、半分に割る音です。
真ん中で割っている瓦は棟割熨斗瓦。 仕様書には「勾配は3寸以上、チリ(上下に重なる熨斗瓦のずれ)は勾配で10mm」という厳しい指定があります。南蛮漆喰を使い、はみ出しを許さず、美しいラインを描く。
疲労がピークに達する競技終了間際。制限時間内に課題が終わるのか。焦りを感じながらも真剣にコテを動かす職人の横顔には、鬼気迫るものがありました。

その後も作業が続きます。他の部門の競技時間が終わったことで、かわらぶき部門へと観戦客が流れてきました。いつの間にかブースの周りは、溢れんばかりの観客で一杯に。
刻一刻と迫る終了時間。作業の残り時間を告げるアナウンスが響き渡り、会場の空気は一変します。選手たちの手が一気に加速していき、無駄のない所作で瓦が納まっていきます。その迫力に、大勢のギャラリーも固唾を飲んで見守ります。

残り5分を切ったころ、課題を終え、自身のスペースを綺麗に清掃していた選手が、静寂を破り高らかに手を挙げます。その瞬間、会場を揺らすほどの激励の拍手が沸き起こりました。
そうしているうちに競技終了の合図。互いを称えあう拍手、観客へ深々とお辞儀を繰り返す選手の皆さん。その表情は、過酷な戦いを終えた安堵と、職人としての誇りに満ちた、実に清々しいものでした。見ている私まで、思わず熱いものが込み上げ、笑みがこぼれてしまいます。
10時間を超える極限の戦い。この舞台に挑む勇気、そして何より最後まで美しくやり遂げたその誇り高い姿に、胸を打たれました。
5.競技見学の際にお会いした株式会社足立瓦店 足立仁志さん
今回は、岐阜県代表の島塚 尚宏さん(有限会社屋根島工務店)の応援に駆けつけていた株式会社足立瓦店・足立仁志さん(以下、足立さん)へインタビューを行いました。競技の見どころだけでなく、その裏側に隠された「努力の痕跡」は、瓦屋根職人だからこその言葉でした!
足立さんは競技初日から会場に足を運び、選手たちの動きを職人ならではの視線で見守っていました。足立さんによれば、一見同じように見える作業にも、選手それぞれの「練習の積み重ね」が如実に表れるといいます。
岐阜の島塚選手は、序盤にややこしい箇所をすべて納め、後半にスムーズに葺ける場所を残す戦略をとっていました。一方で、先に進められる場所をすべて終わらせ、難しい部分を後に集中させる選手も。日頃の練習のプロセスがそのまま本番の進め方に反映されていると、足立さんは語ります。
聞くところによると、岐阜の島塚選手は、今年に入ってから現場に出ることもなく、この大会のためだけに猛練習を重ねてきたそうです。
「皆さん一緒やと思います
ここまでまとめてくるのは並大抵じゃない」
足立さんは言います。どの選手も同様に、現場を離れてまで研鑽を積んでおり、その努力があるからこそ、制限時間内に見事な仕上がりへとまとめてくることができるのです。

技能グランプリの「かわらぶき」が普段の施工と決定的に異なるのは、「電動工具の禁止」と「厳しい時間制限」です 。
「基本的には普段と同じことを行うのが原則ですよ」
「ただ、いまカチカチやってる『鏨(たがね)』の作業なんてのも普段使うこともないんで、勘を取り戻すだけでも相当な時間がかかりますね。」
現代の電動工具が普及し効率化された現場ではあまり使われない伝統的な道具を使いこなし、選手たちは数ミリ単位の微調整を行います。
特に、屋根の頂点(頭)で4方向から集まってきた瓦がピタリと合わさる部分の加工精度は、注目ポイントです。また、完成後には隠れてしまう内部の構造も、競技中には審査員によって厳格にチェックされています 。
足立さんは、自身も約30年前(当時30歳頃)に出場した経験を持つベテランです。当時の技能グランプリと違うところはあるのか尋ねたところ、足立さんは答えます。

「競技自体は変わらないですよ。ただ、人数がね……減っているなって気がしますよね。」
当時は15名ほどいた出場者が今年は7名に。半分程度にまで減少している現状に、足立さんは寂しそうに言葉を紡ぎます。
瓦を用いた物件の減少に伴い、競技会に挑戦しようという若手も少なくなっています。
今回の技能グランプリでは”三州いぶし瓦”という愛知県の瓦が使用されていますが、産地である愛知県からの出場者がいないという事実も、現在の業界の悩ましさを象徴しています。
一方で、大会には厚生労働省などの政府関係者も視察に訪れ、競技を観戦しながらも「なぜここに針金(銅線)が出ているのか?」といった具体的な質問が飛び交いました。
「意識がちょっとでもこっち(瓦屋根)に向いてくれるといいですけどね」
温かい眼差しで、このように語る足立さん。最新のガイドラインに則った施工方法への関心は高く、こうした機会を通じて瓦への意識が少しでも高まることが期待されています。
技能グランプリは単なる技術の競い合いではなく、気候風土に合わせて発展してきた日本の文化を、職人の手を通じて再認識する場所でもあります。
私たちが普段何気なく目にしている屋根には、並大抵ではない練習と、伝統を受け継ぐ誇りが込められています。この「技」の価値が、より多くの人々に届くことを願ってやみません。
足立さん、応援中にお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
6.競技見学の際にお会いした表瓦株式会社 表宏明さん
続いては兵庫県姫路市にて瓦屋根工事店を営む、表瓦株式会社・表宏明さん(以下、表さん)にお話を伺いました。今回は兵庫県からの出場はありませんでしたが、表さんのお目当てはいったい……?

技能グランプリのかわらぶき競技において、表さんが教えてくれた見どころは隅棟の納め方です。
隅棟とは、屋根の面と面が合わさる斜め下に向かってのびている部分を指します。「降棟(くだりむね)」と呼ばれることもあるそうです。素人目線では一見すると同じように見える瓦屋根も、プロの目で見ればその精度は一目瞭然だと言います。
「均等に同じ隙間があるのは見せ方になるんですけど、隙間に差が出ると『あぁここ綺麗に納めきれんかったんかな』っていうふうになってしまうんですよ」
と、少年のような無邪気な瞳で語る表さんには、職人ならではの楽しみ方を教えていただきました。ミリ単位の差が勝敗に繋がってしまうんだそうです。
観客、審査員、そして競技者の全員がプロであるこの場所では、そのわずかな差が勝敗を分けるのです。
技術の精緻さもさることながら、表さんが意識して見てほしいと語るのが、「作業環境の美しさ」です 。
技能グランプリでは、単に瓦を拭くだけでなく、作業中の周りの片付けや掃き掃除までもが審査対象に含まれます。
「ものすごく綺麗に掃き掃除して、片づけて。道具も使ったら戻してっていうところまでが作業として組み込まれて、みんなそれも練習してやってるんですよ」
これらは競技のためのパフォーマンスではありません。現場における「安全」に直結する、職人として最も基本的な、かつ重要な所作だと、表さんは言います。
「足元が綺麗でないと危ない」という現場主義の考え方が、競技の場にも凝縮されています。プロの選手たちが無駄のない動きで環境を整えながら作業する姿には、職人の誠実さが表れています 。
「全員がプロであるこの大会で、ある程度の技術を持っているのは当たり前。その中でどう納めていくのかっていう『手順の違い』を見ながら観戦するのは楽しいなって思いますね」
表さん、足立さんともに選手の「手順の違い」に触れていました。1日目にはその違いが顕著に表れるそうです。おふたりの言葉を聞いた後では、競技の見方がガラリと変わります。完成した形だけでなく、そこに至るまでの思考、道具の扱い、そして片付けの一つひとつに、職人の魂が宿っているのです。
次に瓦屋根を見上げたとき、その一枚一枚に込められた「ミリ単位のこだわり」を感じていただければ幸いです。
表さん、素敵なお話をお聞かせいただきありがとうございます!
7.おわりに
閉会式はグランキューブ大阪で行われました。私たちが観戦したのは主に「かわらぶき部門」でしたが、今回競技が行われた全30職種の表彰式が行われました。
特に優秀な成績を収められた入賞者は以下の県の方々です。

かわらぶき部門以外の結果は、中央職業能力開発協会のHPからご覧いただけます。
□ 過去の大会記録-第33回技能グランプリ│中央職業能力開発協会
閉会式が終わり、第33回技能グランプリ全ての工程が終了しました。
2年に一度の職人の熱き戦い、技能グランプリ。
普段は見られない瓦葺きの技術や職人さんの熱い眼差しを間近で見ることができるチャンスです!真剣な顔つきで瓦と向き合い、瓦葺きに取り組む職人さんの姿は心に迫るものがありました。
皆さまもぜひ会場で一緒に瓦職人さんを応援してみませんか?
・当社及び記事作成者は、当サイトに掲載されている記事や情報の内容に関しては十分な注意を払っておりますが、それらについての正確性や確実性、安全性、効果や効能などを保証するものではございません。
・当サイトに記載された情報のご利用については、ユーザー自身の責任において行われるものとし、ユーザーが当サイトから入手した情報に基づいて直接的または間接的に被ったいかなる損害について、当社および記事作成者は一切の責任を負いません。
屋根のことで困ったときは
「やねいろは」へご相談ください!
「やねいろは」は当社規定の掲載基準をクリアした、顔が見れる地元の屋根工事店のみ掲載。お客様自身が直接、地元の屋根工事店に依頼が可能です。屋根工事依頼をお考えの方は、ぜひご活用ください。
地元の屋根工事店を探す
あなたの地元の屋根工事店を自分で探せます。気になる工事店があれば、工事店にお問い合わせすることも出来ます。
電話でのお問い合わせ
0120-920-302受付時間9:00~18:00(土日祝日を除く)
屋根トラブルでお急ぎの方や電話でご相談したい方は、上記フリーダイヤルにお気軽にご連絡ください。
※ご利用の際は、
利用規約に同意したものとみなされます。
現在こちらの工事店は、災害地域にある工事店の為、対応にはお時間いただく場合や、状況によっては紹介できないケースがございます。予めご了承ください。
災害専用窓口へ地域から屋根工事店を探す
